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東京地方裁判所 昭和30年(ワ)4320号 判決 1957年3月08日

原告 岡安勝恭

右代理人弁護士 伊井豊石

被告 安田生命保険相互会社

右代表者 竹村吉右衛門

右代理人弁護士 常盤温也

<外二名>

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

被告が生命保険を業とする相互会社であり、原告主張の約束手形振出日附当時、訴外矢内敬祐こと矢内一郎が被告会社大阪中央支社の支社長であつたことは被告の認めるところであるし、又証人矢内敬祐こと矢内一郎の証言並に同証言により真正に成立(矢内の作成として)したと認められる甲第一号証の表面(基本手形部分)を綜合すれば矢内が被告会社大阪中央支社長矢内敬祐という振出名義を使用して昭和二十八年十二月十一日訴外高井与五郎に宛て、原告主張の内容を有する約束手形一通を振出した事実を認めることができるけれども、矢内に被告会社を代理して約束手形を振出す権限のあつたことを認め得る証拠は全くないのみならず、却つて証人三浦末八郎、松木清、矢内一郎の何れの証言によるも、被告会社支社長には、被告のため約束手形などを振出す代理権限のないことが認められる。

ところで原告は支社長というものは支店の支配人と同一の権限をもつものと看做さるべきものであるというのでこの点について考える。

保険業などを営む会社で、支社という名称を用いているものが必ずしも珍稀なものでないことは当裁判所に顕著なことであり支社又は支店長なる肩書の使用が、誇大宣伝的悪用を惹起する虞れがないではないことは、本件だけについてみても明であるが、元来支社という用語は俗語であつて法律上一定の内容を明示しているものとは言えないので、支社がその語感だけからして法律上の支店と同等又はそれ以上の営業内容を有する営業所を意味するものとは直ちに断定出来ない。各場合につき問題となつた支社の営業内容をしらべて法律上の支店に該当するかどうかを定める外はないのである。

本件において被告会社大阪中央支社の業務内容をしらべてみると、証人三浦末八郎、松木清の各証言を綜合すれば、右の支社は保険事業を営む被告会社のために保険契約申込の勧誘、代理店契約申込の取次のみを業務内容とするに過ぎず、その以外の保険業務を取扱わないものであることが認められるので、保険事業を営む会社の支店には該当しないものと言わざるを得ない。従つて右支社を以て法律上の支店と同視し、支社長を商法第四十二条の支店の営業の主任者に問擬する原告の主張は当らないのである。

上来説示したところにより、被告に本件手形振出人として責あることを前提とする原告の本訴請求の失当であることは明であるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 毛利野富治郎)

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